冬になると、手の甲やすねがかさついて、粉をふいたようになることがあります。乾燥は肌の表面の水分の話として語られることが多いのですが、皮膚の上にも菌が住んでいて、その暮らしも季節とともに変わります。ここでは、冬の乾燥が皮膚の常在菌にとって何を意味するのかを見ていきます。
皮膚にも、住んでいる菌がいます
腸内細菌という言葉はすっかり知られるようになりましたが、菌が住んでいるのは腸だけではありません。皮膚の表面にも、たくさんの菌がふだんから暮らしています。これを皮膚の常在菌と呼びます。
皮膚の常在菌の顔ぶれは、体のどこかによって大きく違います。顔や背中のように皮脂の多い場所、わきの下のように湿った場所、腕やすねのように乾きやすい場所。場所ごとに、そこでの暮らしに向いた菌が多くなります。
皮膚の菌の多くは、ふだんは悪さをしません。決まった顔ぶれが場所を占めていることで、よそから来た菌が入り込みにくくなっている面もあると考えられています。
皮膚の菌の顔ぶれは、人によっても大きく違います。同じ場所でも、住んでいる菌の種類や割合は一人ひとり異なり、暮らし方や年齢によっても変わっていきます。皮膚の上にも、その人なりのつり合いがあると考えられています。
菌は、皮脂と汗を材料にしています
皮膚の上の菌は、何を食べて暮らしているのでしょうか。主な材料は、皮膚から出てくる皮脂と汗、そして古くなってはがれ落ちる角質です。
菌はこれらを分解して、自分の栄養にしています。その過程でできるものの一部が、肌の表面をわずかに酸性に保つことにも関わっているとされています。一方で、汗のにおいも、菌が汗や皮脂を分解したときにできる成分から生まれます。良くも悪くも、皮膚の状態と菌の働きは結びついています。
つまり、皮膚から出てくる材料が変われば、菌の暮らしも変わります。季節による変化を考えるうえで、ここが要になります。
皮膚の表面がわずかに酸性に保たれていることは、肌の状態を保つうえで大切だとされています。その酸性を保つことに、菌がつくり出すものも関わっているという見方があります。皮膚の常在菌は、ただ住んでいるだけでなく、肌の環境づくりにも加わっているのかもしれません。
乾燥すると、材料と住む場所が変わります
冬は、汗をかく量が減り、皮脂の出方も夏より少なくなりやすい季節です。そこへ外の空気の乾燥と暖房が重なって、肌の表面の水分が逃げやすくなります。
菌から見れば、材料が減り、住む場所が乾くということです。水分の多い環境を好む菌は暮らしにくくなり、乾燥に強い菌が相対的に残りやすくなると考えられます。皮膚の菌の顔ぶれが季節によって変わるという報告もありますが、その変わり方には個人差が大きいようです。
また、肌が乾いて表面にこまかなすき間ができると、ふだんの顔ぶれとは違う菌が入り込みやすくなるという見方もあります。乾燥は、肌の水分だけでなく、皮膚の上のつり合いにも関わっています。
暖房の効いた室内と、寒い屋外を行き来することも、肌にとっては負担になります。温度と湿度の差が大きい環境にくり返しさらされると、肌の表面の水分が保ちにくくなります。冬の乾燥は、外の空気だけでなく、室内の過ごし方からも生まれています。
皮膚の一番外側にある角質の層は、薄い膜のように肌を覆い、水分が逃げるのを防いでいます。この層がしっかりしていると、肌の表面は適度な潤いを保てます。冬に肌がかさつくのは、この層の水分が足りなくなり、表面が乱れてくるためです。
洗いすぎが、乾燥を早めます
ここで例外の話をしておきます。冬の乾燥というと、空気の乾きや寒さに目が向きますが、実は自分の手で乾燥を早めていることがあります。それが洗いすぎです。
熱いお湯で長く洗う、洗浄力の強い石けんでくり返し洗う、体をこすりすぎる。こうしたことが重なると、皮脂や、肌がもともと持っている潤いの成分まで洗い流されてしまいます。菌の材料と住む場所を、自分で減らしていることになります。
清潔にすることは大切です。ただ、皮膚の常在菌はゼロにすればよい相手ではありません。汚れを落とすことと、皮膚の上のものを根こそぎ取ることは、分けて考える必要があります。
手洗いは、感染症を広げないために欠かせない習慣です。ここで言う洗いすぎは、手洗いをやめましょうということではありません。洗ったあとにしっかり水気をふき取り、ハンドクリームなどで保湿をする。洗うことと守ることを、一組にして考えることが大切です。
皮膚の菌を「減らす」より「残す」
冬の肌を考えるときは、菌を減らすことより、ふだんの顔ぶれが暮らせる状態を残すことに目を向けてみてください。
お湯の温度を少し下げる。洗浄料は泡立てて、こすらずにのせるように洗う。洗ったあとは、肌の水分が逃げる前に保湿をする。部屋の空気が乾きすぎないようにする。どれも特別なことではありませんが、皮膚の上の材料と住む場所を守ることにつながります。
皮膚の状態や菌の顔ぶれには、もともと大きな個人差があります。同じことをしても、感じ方は人それぞれです。かゆみや赤みが続くとき、ひび割れがひどいときは、自分で判断せず皮膚科で相談しましょう。
皮膚の菌も、腸の菌と同じように、追い出す相手ではなく、一緒に暮らしている相手です。冬の乾燥は毎年やってきますが、その中でふだんの顔ぶれが暮らしていける状態を少しでも残しておく。肌の手入れは、皮膚の上の小さな生態系の手入れでもあると考えてみてください。