発酵食品の並ぶ食卓で味噌汁の器を手にする女性

毎日ヨーグルトを続けているのに、なにかが変わった実感がない。続ける意味があるのだろうか。そう思ったことはありませんか。実は、外から食べた菌のほとんどは腸に住みつきません。これは続け方が悪いのではなく、もともとそういう仕組みです。では、住みつかない菌を食べることに、どんな意味があるのでしょうか。腸のなかで実際に起きていることを、微生物検査の現場の視点から順に見ていきます。

目次

毎日食べていても、住みついてはいません

発酵食品を食べると、その中の菌が腸に住みついてくれる。そんなイメージを持たれることが多いようです。けれど腸内細菌を調べる研究では、少し違うことが観察されています。

ヨーグルトや乳酸菌飲料を毎日続けているあいだは、便からその菌が検出されます。ところが摂るのをやめると、多くの場合、数日から一週間ほどで検出されなくなります。腸の中で増えて定着していたのではなく、入ってきた菌がそのまま通り過ぎていたということです。

この通り過ぎる菌は、専門的には通過菌と呼ばれます。腸にもともと住んでいる常在菌とは、立場がまったく違います。腸内フローラの顔ぶれは成人になるころにはかなり安定していて、外から一時的に何かを足しても、その構成そのものは簡単には動きません。

つまり住みつかなかったのは、続け方が足りなかったからではありません。もともとそういう仕組みだった、というだけのことです。

席が空いていない、という言い方がいちばん近い

ではなぜ住みつけないのか。理由のひとつは、すでに席が埋まっていることです。

腸の中は、栄養も場所も限られています。粘液層のどこに付着するか、どの糖を分解して生きるか。そうしたポジションは、長年そこにいる常在菌がすでに押さえています。あとから入ってきた菌が同じ場所を確保するのは、簡単ではありません。この仕組みは定着抵抗と呼ばれ、外から来た菌が無秩序に増えてしまわないための、腸の側の守りでもあります。

この定着抵抗は、私たちにとって都合の悪い菌が入ってきたときにも同じように働きます。外から来たものが簡単には居座れないという性質は、腸を守る側にも回っているわけです。発酵食品の菌が住みつかないことと、望まない菌が住みつきにくいことは、同じ仕組みの表と裏だといえます。

そして席の埋まり方は、人によって違います。同じ発酵食品を同じ期間食べても、便に出てくる菌の様子が人ごとに変わるのは、受け入れる側の顔ぶれが最初から違うからです。常在菌を一度崩してしまうと元の状態に戻りにくいことも、裏返しの同じ話といえます。

通り過ぎる数日に、置いていくものがあります

ここからが本題です。住みつかないなら食べる意味がないのかというと、そうではありません。

菌は通過しているあいだ、じっとしているわけではありません。腸を移動しながら糖を分解し、代謝産物を出しています。乳酸や酢酸はその代表です。数日で出ていく菌であっても、そこにいるあいだは働いています。

そして出された代謝産物は、そのまま消えてしまうわけではありません。腸にもともといる菌の一部は、ほかの菌が出した乳酸や酢酸を材料として受け取り、酪酸のような別の物質へ変えていきます。菌から菌への受け渡しです。通過菌は住民票をもらえなくても、住民に材料を置いていくことはできるわけです。

もうひとつ、通過菌が出す酸そのものにも役割があります。乳酸や酢酸が増えると、腸のなかはわずかに酸性へ傾きます。多くの菌にとって酸性の環境は生きにくく、これも腸内の勢力図に関わる要素のひとつと考えられています。通り過ぎるだけの菌が、その場の条件を少し動かしている、という見方です。

短鎖脂肪酸の話が腸内環境の文脈で繰り返し出てくるのは、こうした受け渡しの終点にあたるからです。そう考えると、見るべきなのは誰が住んでいるかよりも、何がつくられているか、なのかもしれません。

菌が生きていない場合は、どうなるのか

ここで、例外のように見えるものがひとつあります。

私たちが日常的に口にする発酵食品の多くは、実は菌が生きていません。味噌汁は加熱しますし、パンは焼かれています。市販の甘酒も多くは加熱殺菌されています。菌が生きていないのなら、通り過ぎることすらできないのではないか。そう思えます。

けれど発酵食品の中身は、菌だけではありません。発酵の過程で、菌はすでに多くの物質をつくり終えています。アミノ酸、ペプチド、有機酸、そして菌体そのものの成分。これらは加熱で菌が死んだあとも残ります。

微生物が生み出したこうした成分のほうに着目する考え方は、バイオジェニックスと呼ばれます。生きた菌を届けることを前提にしないため、定着するかどうかという問いから離れて考えられるのが特徴です。発酵という古い技術が、菌の顔ぶれを知るすべもなかった時代から続いてきたことを思うと、人が受け取ってきたのは、もともと菌そのものではなく、菌がつくったもののほうだったのかもしれません。

もちろん、生きた菌を摂ることに意味がないという話ではありません。通過するあいだに働くという前の節の話は、菌が生きているからこそ成り立ちます。ここで申し上げたいのは、生きているかどうかだけが判断の軸ではない、ということです。

続ける意味は、住まわせることではありません

ここまでを踏まえると、発酵食品との付き合い方も少し変わってきます。

まず、通過菌は出ていくからこそ、続けているあいだだけ働きます。やめれば止まる。毎日という言葉に意味があるのは、定着させるためではなく、供給を切らさないためです。

次に、一種類に賭けないことです。どんな物質をどれだけ出すかは菌によって違います。ヨーグルト、味噌、漬物、甘酒と幅を持たせるほうが、置いていかれるものの種類も増えます。

そして、受け取る側の準備も要ります。せっかく乳酸や酢酸が置かれても、それを酪酸へ変える菌の材料が不足していれば、受け渡しは途中で止まります。食物繊維が繰り返し話題になるのは、この受け手を支える側だからです。

ただ、自分の腸にいま誰が住んでいるのかは、人によって違います。同じものを食べても同じようには働かない、というのが正直なところです。何をどう組み合わせるかで迷ったときは、正規取扱店のカウンセラーに相談してみてはいかがでしょうか。今の食生活を聞いたうえで、足りていない部分から一緒に考えてもらえます。

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