体にいいと聞いたものを、少しだけ分けてあげたくなることがあります。ヨーグルトをひとさじ、納豆を数粒。足元で見上げられると、つい手が伸びます。ただ、人と犬では消化のしくみも、腸の中に住んでいる菌の顔ぶれも違います。同じものを食べても、同じように働くとは限りません。ここではヨーグルトと納豆を例に、犬の体の中で何が起きているのかを整理します。
「少しなら」と「体にいい」は別の話です
犬にヨーグルトや納豆を分けている方は、めずらしくありません。実際、ごく少量であれば大きな問題にならないことも多いようです。ただ、ここで混ざりやすいのが「害が出にくい」と「体にいい」という二つの話です。この二つは別のことを指しています。
前者は、その量なら体が処理しきれる、という意味です。後者は、その食品が犬の体で何かしらの働きをする、という意味になります。前者が言えても、後者が自動的についてくるわけではありません。
人向けの発酵食品は、人の消化を前提に作られています。原料の選び方も、味の付け方も、想定している一回量も、すべて人に合わせてあります。犬に分けるというのは、その前提から外れたところで食べさせるということです。
ですから考えるべきなのは、その食品が良いか悪いかではありません。人に合わせて作られたものが、犬の体に入ったときに何が起きるのか、です。そこを見ていくと、ヨーグルトと納豆ではまったく別の話になります。
乳糖を分解する力は、離乳とともに落ちます
牛乳やヨーグルトに含まれる乳糖は、小腸でラクターゼという酵素によって分解されてから吸収されます。この酵素は子犬のあいだは活発に働いています。母乳を消化する必要があるからです。そして離乳を過ぎると、その活性は下がっていきます。これは犬に限った話ではなく、人でも同じことが起きます。
分解されずに残った乳糖は、そのまま大腸まで届きます。大腸に届いた糖は水を引き込む性質があり、さらに腸内細菌がそれを発酵させてガスをつくります。おなかがゆるくなったり張ったりするのは、この二つが同時に起きるためです。同じしくみは、人が糖アルコールでおなかをこわすときにも働いています。
ヨーグルトは発酵の過程で乳糖の一部が乳酸に変わっているため、牛乳よりは負担が軽いとされています。ただし減っているだけで、なくなってはいません。
もうひとつ押さえておきたいのは、これが量の問題だということです。酵素の働きが落ちているといっても、ゼロになるわけではありません。処理しきれる範囲であれば大腸まで届く乳糖は少なく、何も起きないまま終わります。境目がどこにあるかは個体差が大きく、外から見て分かるものではありません。体重の小さな犬ほど、同じひとさじが相対的に大きな量になります。
納豆の菌も、犬の腸を通り過ぎます
納豆菌は芽胞という耐久型をつくる菌なので、胃酸を越えて腸まで届きやすい性質を持っています。ここまでは、犬でも人でも大きくは変わりません。
変わらないのは、その先も同じです。届いた菌がそのまま住みつくわけではない、という点です。外から入った菌の多くは数日で便とともに出ていきます。腸の中にはすでに常在菌が場所を占めていて、新参者が居場所を得るのは簡単ではないからです。
さらに、犬は人よりも消化管が短く、食べたものが通過するのにかかる時間も短い傾向があるとされています。通り過ぎるだけの菌にとっては、滞在できる時間がその分だけ短いということになります。
そのうえで、犬の腸内細菌の顔ぶれは人のものとは違います。食性が違えば、住んでいる菌の構成も変わります。通り過ぎる菌が乳酸や酢酸を置いていったとして、それを受け取って次の物質に変える菌が同じように控えているとは限りません。材料が同じでも、受け手が違えば結果は変わります。なお、納豆菌のように同じ種類でも株が違えば働きが変わるという話は、人の側の記事で詳しく扱っています。
問題になりやすいのは、食材より味付けのほう
ここまで食材そのものの話をしてきましたが、実際に相談として持ち込まれやすいのは、食材ではなく一緒に入っているものです。
無糖のプレーンヨーグルトと、加糖や甘味料入りのヨーグルトは、犬にとっては別の食品と考えたほうが安全です。特にキシリトールは、犬では人と違う反応を示すことが知られており、含まれている製品は避けるのが一般的です。納豆も、付属のタレやからしを混ぜたもの、惣菜としてねぎ類が加えられたものは、大豆と菌だけの話ではなくなります。ねぎ類は犬に向かない食材としてよく挙げられます。
つまり「ヨーグルトは可か不可か」「納豆は可か不可か」という食材単位の問いの立て方だと、肝心なところを見落とします。見るべきは商品の裏側にある表示のほうです。
原材料名は使用量の多い順に並んでいます。乳と乳酸菌だけで終わっている表示と、そのあとに糖類や甘味料が続く表示では、同じ棚に並んでいても中身が違います。分けるかどうかを決める前に、まず一度そこを読んでみてください。
迷ったら、かかりつけの獣医師へ
最後に、量の感覚について触れておきます。体重五キロの犬と三十キロの犬では、同じひとさじの意味がまるで違います。持病があったり、薬を飲んでいたりする場合はさらに前提が変わります。人の食品を分けるかどうかは、その子の体格と状態を知っている人でなければ判断しきれません。
犬の腸のことを考えて何かを足したいのであれば、はじめから犬向けに設計されたものを選ぶという道もあります。想定している体格も、含まれるものの範囲も、そちらのほうがはっきりしています。
分けてあげたいという気持ちは、その子をよく見ているからこそ出てくるものです。その気持ちはそのままに、判断の部分だけはかかりつけの獣医師に相談してみてください。