「シュガーレス」「おなかにやさしい」とうたうガムやのど飴を、つい多めに口にしてしまう。そのあとでお腹がゆるくなった経験はないでしょうか。パッケージには、食べすぎるとお腹がゆるくなることがある、と小さく書かれています。これは糖アルコールという甘味料の性質によるもので、実は腸のなかで二つのことが同時に起きています。なぜそうなるのかを、仕組みから見ていきます。
糖アルコールとは ― 「糖」なのに吸収されにくい
糖アルコールは、砂糖に近い甘さを持ちながら、体に吸収されにくい甘味料の総称です。名前に「アルコール」とありますが、お酒の成分とは別物で、酔うことはありません。キシリトール、ソルビトール、マルチトール、エリスリトールなどが、この仲間にあたります。
ガムやのど飴、「シュガーレス」をうたう菓子によく使われます。砂糖に比べてカロリーが控えめで、血糖値を上げにくいことから選ばれています。キシリトールが虫歯になりにくい甘味料として知られているのも、この仲間の特徴のひとつです。口のなかの菌がキシリトールを栄養源として利用しにくいため、酸をつくりにくいのです。この点は口内環境の話ともつながります。
問題は、この「吸収されにくい」という長所が、そのままお腹のゆるさの原因にもなるという点です。長所と短所が同じ性質の裏表になっている、というのが糖アルコールの面白いところです。
もう少し具体的にいうと、糖アルコールは化学的には「糖の一部を変化させた構造」を持っています。この構造のおかげで甘さは残るのに、小腸の消化酵素では分解しきれず、吸収の途中で取り残されます。砂糖なら小腸でほぼ吸収されてしまうところを、糖アルコールは通り抜けていく、というイメージです。
お腹がゆるくなる仕組みは「浸透圧」
ひとつめの仕組みは、菌とは関係のない、純粋な物理現象です。
糖アルコールは小腸で吸収されにくいため、その多くが吸収されないまま大腸まで届きます。大腸に糖アルコールが多く存在すると、まわりから水分を引き込む力(浸透圧)が働きます。濃いものを薄めようとして、腸の壁を通して水が腸のなかへ移動してくるのです。
結果として、大腸のなかの水分が増え、便がゆるくなります。これは腸内細菌のバランスが崩れたわけでも、体に異常が起きたわけでもありません。塩を大量にとると喉が渇くのと同じで、濃度の差を埋めようとする体の自然な反応です。菌の働きを一切借りずに、化学の法則だけで起こる現象です。
検査室でも、この浸透圧という考え方は身近です。菌を培養する寒天も、水分を保つ塩分濃度を調整して菌が育つ環境をつくります。濃度の差が水を動かすという原理は、大腸のなかでも培地のなかでも、同じように働いています。
もうひとつの経路 ― 腸内細菌が発酵させる
ふたつめの仕組みには、腸内細菌が関わります。
吸収されずに大腸まで届いた糖アルコールは、そこに住む菌にとっての栄養にもなります。菌がこれを発酵させると、その過程でガスが生じます。糖アルコールを多くとった日にお腹が張りやすくなるのは、このためです。
ここで、前の記事で触れた話が戻ってきます。発酵と腐敗で見たとおり、発酵とは菌が有機物を分解して別のものへ変えることでした。大腸のなかでも同じことが起きていて、菌が糖アルコールを分解し、ガスや短鎖脂肪酸などをつくります。食物繊維が腸内で発酵するのと、原理としては地続きです。
つまり、糖アルコールでお腹がゆるくなるとき、腸のなかでは浸透圧による水分の移動と、菌による発酵という二つのことが同時に進んでいます。どちらが強く出るかは、とった糖アルコールの種類と量、そしてその人の腸内細菌によって変わります。
エリスリトールだけ、少し事情が違う
同じ糖アルコールでも、エリスリトールは他と振る舞いが異なります。エリスリトールは分子が小さく、大腸に届く前に小腸で吸収され、その多くがそのまま尿として排出されるという性質があります。
大腸まで届く量が少ないため、浸透圧の影響も、菌による発酵も起きにくい。同じ「シュガーレス」の表示でも、エリスリトール中心の製品は、ソルビトールやマルチトール中心の製品に比べて、比較的お腹がゆるくなりにくいとされています。
「糖アルコールだからお腹がゆるくなる」と一括りにできないのは、こうした種類ごとの違いがあるためです。原材料表示を見て、どの甘味料が使われているかを知っておくと、自分に合うものを選びやすくなります。
量と、付き合い方
大切なのは、糖アルコールそのものが体に悪いわけではない、という点です。適量であれば、砂糖のとりすぎを避けるための選択肢になります。お腹がゆるくなるかどうかは、量と個人差の問題です。
気をつけたいのは、無意識のうちに量が積み重なる場面です。ガムを何枚も噛んだり、のど飴を次々になめたりすると、一日の合計は思ったより多くなります。「シュガーレスだから」と安心して量が増えると、かえってお腹に響くことがあります。
また、糖アルコール以外の甘味料にも、腸内細菌との関わりが研究されているものがあります。この点は人工甘味料と腸内環境の記事で扱いました。甘味料はひとくくりにせず、種類ごとに性質を知って付き合うのがよさそうです。まずは、自分がどれくらいの量で反応するかを、体の声を聞きながら知っていくところからでしょう。
なお、繰り返し強い下痢が続くときや、糖アルコールをとっていないのにお腹の不調が長引くときは、別の原因が隠れていることもあります。気になる症状が続く場合は、自己判断で済ませず、医療機関に相談してください。