秋の果物を手に取る女性

りんごや柿、梨がおいしくなる季節です。果物は食物繊維がとれる食べ物として紹介されることが多いのですが、その繊維がおなかの中で誰の手に渡り、何になっていくのかまでは、あまり語られません。ここでは、りんごに多いペクチンという繊維を例に、果物の繊維が大腸の菌に受け取られるまでを追ってみます。

目次

果物の繊維は、細胞どうしをつなぐ「のり」です

りんごを薄く切って光に透かすと、小さな部屋のようなものがびっしり並んでいるのが見えることがあります。これが植物の細胞です。細胞は一つずつ壁に囲まれていて、その壁と壁をつなぎ合わせているのがペクチンです。

ジャムがとろりと固まるのも、このペクチンの働きです。果物を砂糖と煮詰めると、ペクチンが網のようにつながって全体をまとめます。台所ではおなじみの性質ですが、食べたあとのペクチンは、人の消化酵素ではほとんど分解されません。

つまりペクチンは、胃と小腸をほぼそのまま通り抜け、大腸まで届く材料です。食物繊維のなかでも水に溶けやすい側に入り、水溶性の食物繊維として扱われます。

ペクチンが多いのは、りんごだけではありません。柑橘の皮や袋、桃や柿、いちじくなど、秋から冬に出回る果物の多くに含まれています。果物の種類が違えば、ペクチンの形や量も少しずつ違い、届く材料の顔ぶれもそれに合わせて変わります。

ペクチンを切り分けられる菌は限られています

大腸に届いたペクチンを最初に受け取るのは、どの菌でもよいわけではありません。ペクチンは糖が長くつながった鎖で、しかも枝分かれや飾りの多い、ほどきにくい形をしています。これを切り分ける道具をそろえて持っている菌は限られています。

よく知られているのは、バクテロイデスの仲間です。この仲間には、植物の繊維ごとに専用の分解道具をひとそろい持つものがいて、ペクチンを細かな糖に切り分けていくことが調べられています。

ここで大事なのは、材料があっても、それを受け取る菌がいなければ話が始まらないことです。同じりんごを食べても、おなかの中の顔ぶれによって、最初の一歩の進み方は人ごとに違ってきます。きのこの繊維でも同じことが言えます。

一方で、菌の側にも好みがあります。ある菌はペクチンの長い鎖をほどくのが得意で、別の菌は枝分かれした部分を切るのが得意、というように、仕事が分かれていることもあります。一つの繊維を、何種類かの菌が手分けしてほどいていると考えると、実際の姿に近くなります。

切り分けたあとに、受け渡しが始まります

ペクチンを切り分けた菌は、できた糖を全部ひとりで使い切るわけではありません。周りにこぼれた糖や、途中でできた酢酸などを、別の菌が受け取ります。

そうして受け取った菌が、さらに別のものをつくる。最初の一人が繊維をほどき、次の一人がそれを使い、最後に別の誰かが仕上げる。酪酸ができるまでの受け渡しと同じ構図が、ペクチンでも起きています。

果物の繊維が「腸内細菌のエサになる」と言われるとき、実際に起きているのは一皿を何人かで順番に食べていくような流れです。一種類の菌が増えれば済む話ではなく、受け渡しの線がどこまでつながるかで、最後にできるものが変わります。

こうした受け渡しの結果として、大腸では酢酸などの短鎖脂肪酸がつくられます。どの物質がどれくらいできるかは、届いた繊維の種類と、その人のおなかの顔ぶれの組み合わせで決まります。果物を食べた人みんなが同じ結果になるわけではない、というのは、このためです。

皮をむくと、届くものが変わります

ここで一つ、例外の話をしておきます。りんごの場合、皮をむくかどうかで、腸に届くものが少し変わります。

ペクチンは果肉にも含まれていますが、皮やそのすぐ下に多いとされています。皮にはペクチンのほかに、水に溶けにくい繊維や、色や渋みのもとになる成分も集まっています。皮ごと食べると、腸に届く材料の種類が一つ増えるということです。

ただ、皮をむいたら意味がない、ということではありません。食べやすさや好みもありますし、農薬が気になる方もいるでしょう。皮つきで食べられる日は皮ごと、そうでない日はむいて、という程度で十分です。大切なのは、果物そのものを食卓から外さないことです。

また、熟し具合によっても中身は変わります。果物は熟すにつれて、ペクチンの一部が分解されてやわらかくなります。かたい青いりんごと、よく熟したやわらかいりんごでは、同じ一切れでも届く繊維の状態が違うということです。どちらが良いということではなく、季節の中で自然に変わっていくものと考えておけば十分です。

ジュースより、かじるほうがよい理由

同じりんごでも、ジュースにすると話が変わります。透明なジュースは、搾ったあとに繊維を取り除いてつくられることが多く、ペクチンの多くは搾りかすの側に残ります。飲み口はすっきりしますが、大腸の菌に届く材料は大きく減ります。

かじって食べる場合は、繊維ごと口に入ります。噛むことで細かくなり、菌が触れられる面も広がります。果汁の甘さだけを先に体に入れるのではなく、繊維と一緒にゆっくり届けることになります。

秋の果物は、季節を感じる楽しみでもあります。毎日たくさん食べる必要はありません。一切れを、皮ごと、よく噛んで。それだけで、大腸の菌に回る材料の顔ぶれは一つ増えます。

もちろん、果物には糖も含まれています。たくさん食べれば、それだけ糖もとることになります。果物を食事の一部として、ほどほどの量を楽しむのが、腸の菌にとっても、体全体にとっても無理のない付き合い方です。

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