秋になると、店先にさまざまなきのこが並びます。きのこは低カロリーで食物繊維が多い食品として知られていますが、その食物繊維が、野菜や穀物のものとどう違うのかは、あまり語られていません。きのこは植物ではなく、菌類の仲間です。そのため、食物繊維のつくりも独特です。ここでは、きのこの食物繊維が何でできているのか、大腸の菌がそれをどう受け取るのかを順に見ていきます。食べるときに気をつけたいことにも触れます。
きのこの食物繊維は、細胞の壁でできています
きのこは、カビや酵母と同じ菌類の仲間です。私たちが食べているのは、菌糸が集まってできた子実体と呼ばれる部分です。
菌類の細胞は、植物とは違う材料で壁をつくっています。主な成分は、β-グルカンとキチンです。β-グルカンはぶどう糖がつながった多糖で、キチンはエビやカニの殻にも含まれる成分です。どちらも、人の消化酵素では分解できません。
そのため、これらはそのまま小腸を通り過ぎて大腸へ届き、食物繊維として数えられます。きのこが低カロリーのわりに食物繊維が多い食品とされるのは、体の大部分が水と、この細胞壁でできているためです。
菌糸は、細胞壁という丈夫な骨組みに守られながら、土や木の中へ伸びていきます。私たちがきのこを歯ごたえのある食感として感じているのは、この骨組みの強さでもあります。
野菜の食物繊維の多くは、セルロースやペクチンといった植物の細胞壁の成分です。きのこは、それとは違う種類の繊維を届けてくれる食品だということになります。
β-グルカンは、分解できる菌に受け取られます
大腸に届いたβ-グルカンは、どの菌でも分解できるわけではありません。β-グルカンのつながり方に合った酵素を持つ菌が、これを切り分けて使います。腸に多いバクテロイデス属の仲間には、こうした多糖を分解する道具を数多く持つものがいることが知られています。
切り分けられた糖は発酵の材料になり、短鎖脂肪酸がつくられていきます。冷やご飯のでんぷんと同じように、最初に分解を担う菌がいて、そこから別の菌へと受け渡されていく流れです。
なお、β-グルカンは大麦やオーツ麦にも含まれますが、穀物のものときのこのものとでは、ぶどう糖のつながり方が違います。同じ名前で呼ばれていても、構造が違えば、受け取る菌も同じとは限りません。
さらに、分解を担う菌をどれだけ持っているかは、人によって違います。同じきのこを食べても、腸の中で起きることには個人差があります。同じものを摂っても結果が違う理由は、こうした菌の顔ぶれの違いにあります。
また、きのこのβ-グルカンの量は、測る方法によって値が大きく変わることがあります。宣伝などで数字を見かけたときは、どの方法で測った値なのかまで確かめないと、比べることはできません。検査の現場でも、よく確認される点です。
キチンは、ほとんどそのまま通り過ぎます
もうひとつの成分であるキチンは、水に溶けにくく、腸内細菌にもあまり分解されないとされています。大腸でも大部分が形を保ったまま通り過ぎ、便のかさを増やす側に働きます。
分解されにくいことは、悪いことではありません。水を抱えてかさを増す繊維は、腸の中身を運ぶ動きを助けます。発酵の材料になる繊維と、かさをつくる繊維。きのこは、この二つの性質を一度に持っている食品です。
ただし、かさの多い繊維を急に増やすと、お腹が張ったり、かえって便が出にくく感じたりすることがあります。量は少しずつ増やし、水分も一緒に摂るのが基本です。
きのこを細かく刻む、よく火を通してやわらかくする、といった調理の工夫でも、食べやすさは変わります。かたい部分が気になる方は、石づきの近くを切り落として使うとよいでしょう。
きのこは、生で食べないのが基本です
きのこを食べるときには、腸の話とは別に、気をつけたいことがあります。店頭のきのこも、基本的には加熱して食べるものです。
たとえばしいたけは、生や加熱が不十分なまま食べると、皮膚にむちで打ったような赤い発疹が出ることがあり、しいたけ皮膚炎と呼ばれています。十分に加熱すれば、このようなことは起こりにくくなります。加熱しても、きのこの食物繊維がなくなるわけではありません。
また、秋は野生のきのこを採る機会もある季節です。食べられるきのこと毒きのこは、見た目だけでは見分けがつかないことが多く、毎年のように食中毒が起きています。確実に判別できないきのこは、採らない、食べない、人にあげないことが大切です。
きのこを食べたあとに、吐き気や嘔吐、下痢、発疹などが出た場合は、食べたきのこが残っていれば持って、早めに医療機関にご相談ください。
何種類かを組み合わせて、少しずつ
しいたけ、しめじ、まいたけ、えのきたけ、エリンギ。きのこは種類によって、食感も含まれる成分の割合も違います。一種類をたくさん食べるより、何種類かを組み合わせたほうが、腸に届く材料の幅は広がります。
きのこは、うま味の多い食材でもあります。しいたけのグアニル酸や、きのこ類に多いグルタミン酸は、だしの味わいを支える成分です。うま味を生かせば、塩分を控えめにしても満足感のある料理にしやすくなります。
汁物や鍋、炊き込みご飯に入れれば、無理なく量を摂れます。干ししいたけは、戻し汁にも成分が溶け出しているので、料理に使うとむだがありません。よく噛んで食べることも、繊維の多い食品を腸に届けるうえで役立ちます。
急に量を増やすと、発酵が盛んになってガスが増えることもあります。ほかの食物繊維と同じように、少しずつ食卓に加えていくのがよいでしょう。
きのこは、植物とは違うつくりの繊維を腸に届けてくれる、秋らしい食材です。旬の時期に、いつもの料理へひとつかみ足してみてください。