寒くなると、温かい甘酒がおいしい季節になります。けれども、店に並ぶ甘酒には、米麹でつくるものと酒粕でつくるものがあり、中身はかなり違います。ここでは、二つの甘酒の違いと、飲んだあと腸の菌のところまで届くものについて見ていきます。
同じ「甘酒」でも、つくり方が違います
米麹の甘酒は、炊いたご飯やおかゆに米麹を混ぜ、温かいところでしばらく置いてつくります。砂糖を加えなくても、時間がたつと甘くなります。
酒粕の甘酒は、日本酒をしぼったあとに残る酒粕を、お湯に溶かしてつくります。酒粕そのものはほとんど甘くないため、砂糖を加えて甘みをつけるのが一般的です。
つまり、米麹の甘酒は甘さを麹がつくり、酒粕の甘酒は甘さをあとから足しているということです。名前は同じでも、出発点も、甘さの出どころも違います。
市販の甘酒には、両方を合わせたものもあります。原材料の欄を見ると、どちらの甘酒なのかがわかります。
江戸時代には、甘酒は夏の飲み物として売り歩かれていたといわれます。俳句では、甘酒はいまも夏の季語です。冬に温めて飲むことが多い現在とは、飲まれ方も少し違っていました。
米麹の甘さは、麹の酵素がつくります
米麹の甘酒が甘くなるのは、麹菌が出した酵素が、ご飯のでんぷんを切ってブドウ糖などの糖に変えるためです。麹菌そのものが増えて何かをしているというより、麹に蓄えられた酵素が働いている、と考えるとわかりやすくなります。
このとき、温度は50〜60℃ほどに保たれることが多いです。酵素がよく働き、ほかの菌は増えにくい温度です。また、お酒をつくる酵母は加わらないため、米麹の甘酒ではアルコールはできません。
甘酒の甘さの中心はブドウ糖です。ブドウ糖は小腸で吸収されやすい糖なので、甘さそのものは、ほとんどが腸の菌のところまで届く前に体に取り込まれます。
ここが、甘酒と腸の関係を考えるうえでの出発点です。甘い部分は人のためのもの、と言ってもよいかもしれません。
米麹の甘酒をつくるときに温度を上げすぎると、今度は酵素の働きが弱まってしまいます。甘さがうまく出るかどうかは、麹の酵素が働きやすい温度を、一定の時間保てるかにかかっています。
酒粕には、酵母と米の残りが詰まっています
酒粕は、日本酒づくりで米と麹を酵母が発酵させたあとの、しぼりかすです。そこには、溶けきらなかった米の成分、麹、そして発酵を終えた酵母の細胞が含まれています。
酒粕には、消化されにくいタンパク質が含まれているという報告もあり、研究が進められています。米麹の甘酒とは、含まれているものの顔ぶれがかなり違います。
また、酒粕はお酒のしぼりかすなので、アルコールが残っています。お湯に溶かして温めても、すべてが飛ぶとは限りません。運転の前や、子どもに出すときは、商品の表示を確かめると安心です。
同じ湯のみに入っていても、米麹の甘酒は「でんぷんを切ったもの」、酒粕の甘酒は「お酒の発酵が終わったあとに残ったもの」です。
酒粕は、甘酒のほかにも、粕汁や粕漬けなど、昔から台所で使われてきた食材です。お酒のしぼりかすとはいえ、捨てるものではなく、もう一度食卓に戻ってくる発酵の副産物です。
大腸に届くのは、甘さ以外の部分です
では、甘酒のうち腸の菌のところまで届くのは何でしょうか。中心になるのは、吸収されずに残る部分です。米の細胞の壁に由来する食物繊維や、消化されにくい成分がこれにあたります。
もう一つは、麹菌や酵母の細胞の殻です。麹菌も酵母も、きのこと同じ菌類(真菌)の仲間で、細胞の壁にはβグルカンなどの成分が含まれています。きのこの細胞壁と同じように、人の酵素では分解しにくく、大腸の菌の材料になりうるものです。
ただし、量はそれほど多くありません。甘酒は、腸の菌のための材料というより、甘さを楽しむ飲み物に、菌の材料が少し添えられていると考えるのが実際に近いところです。
また、市販の甘酒の多くは加熱して殺菌されています。発酵食品の菌は腸に住みつくわけではないので、生きた菌がいるかどうかより、麹菌や酵母が残したものに目を向けるほうが、甘酒の見方としては筋が通っています。
大腸まで届いた繊維や細胞の殻は、そこに住む菌によって少しずつ分解されます。どの菌がどれだけ受け取るかは、ほかの食べ物と同じように、その人の腸に住む菌の顔ぶれによって変わります。
甘いぶん、量に気をつけて楽しみましょう
甘酒は、ブドウ糖を多く含む甘い飲み物です。米麹の甘酒は砂糖を使っていなくても、糖そのものは十分に含まれています。酒粕の甘酒は、加えた砂糖の分が甘さになります。
体を温めたいとき、甘いものが欲しいときに、湯のみ一杯を楽しむ。そのくらいの付き合い方が、ちょうどよいところです。
腸の菌に材料を届けたいなら、甘酒だけに頼るより、ご飯、豆、野菜、きのこなど、ふだんの食事で繊維を届けるほうが確かです。甘酒は、その食卓に添える一杯として考えるとよいでしょう。
菌がつくり出したものを、人が味として受け取る。甘酒の甘さは、麹の酵素が残してくれた仕事の結果です。菌がつくり出したものに目を向ける考え方を、私たちはバイオジェニックスと呼んでいます。
手づくりの米麹の甘酒は、保存料を使わないぶん傷みやすくなります。つくったら冷蔵庫に入れ、早めに飲みきるようにしましょう。においや泡の様子がいつもと違うときは、無理に飲まないことが大切です。