便のにおいが、いつもと違う。そう感じたことのある方は少なくないと思います。食べたものが原因だろう、と考えるのが自然ですが、実際ににおいをつくっているのは食べたものそのものではありません。大腸に住む菌が、届いた材料を分解したときに生まれる物質です。そして何が生まれるかは、菌が「何を」分解しているかで変わります。においがどこから来るのか、なぜ変わるのかを、検査室の視点から順に見ていきます。
便のにおいは、食べたもののにおいではありません
においの正体を化学的に追いかけると、いくつかの物質にたどりつきます。インドールやスカトールと呼ばれる物質、硫化水素などの硫黄を含む化合物、そしてアンモニアです。いずれもごく低い濃度で強く感じられるもので、食べものにもともと含まれていたわけではありません。
これらは大腸で新しくつくられます。担っているのは私たちの消化ではなく、そこに住んでいる菌のほうです。小腸までで吸収されなかったものが大腸に届き、菌がそれを分解する。その過程の副産物が、においとして立ち上がってきます。
この構図は、口のにおいとまったく同じです。舌の上でも、菌がたんぱく質やアミノ酸を分解して硫黄化合物が生まれていました。場所が口から大腸に変わっただけで、起きていることの骨格は変わりません。
もうひとつ前置きをしておくと、においがあること自体は異常ではありません。大腸には多くの菌が住んでいて、何も分解していない状態というのは考えにくいからです。手がかりになるのは、においがあるかないかではなく、いつもとどう違うかのほうです。
においを分けているのは、菌が「何を」分解しているか
ここからが本題です。腸内細菌はひとつのことだけをしているわけではありません。届いた材料によって、まったく違うものをつくります。
食物繊維などの糖質が届けば、菌はそれを分解して短鎖脂肪酸をつくります。酢酸、プロピオン酸、酪酸といった物質で、においは弱く、腸の中を酸性寄りに保つ働きがあります。短鎖脂肪酸は、腸の細胞のエネルギー源にもなります。
一方、たんぱく質やアミノ酸が分解される経路では、先ほどのインドールや硫黄化合物、アミン類が生まれます。硫黄を含むアミノ酸が分解されれば硫化水素が、トリプトファンが分解されればインドールやスカトールが出てきます。
つまり、同じ菌がいても、届く材料が違えばできるものが違うということです。においの変化は、腸の中で優勢になっている分解の向きが変わったことのあらわれといえます。
材料が届かなくなると、産物が変わります
では、どういうときに向きが変わるのでしょうか。ひとつは、糖質側の材料が足りなくなるときです。
食物繊維は大腸の入り口から順に使われていくため、量が少ないと途中で尽きます。その先の区間では、菌は残っている材料、つまりたんぱく質のほうを使うことになります。食物繊維が届く範囲が短くなるほど、たんぱく質側の分解が占める割合が増える、という関係です。
短鎖脂肪酸が生まれると腸の中は酸性寄りに傾きますが、たんぱく質側の分解はどちらかといえば中性に近い環境で進みやすくなります。糖質側の分解が続いている区間では、たんぱく質側の分解が起きにくい状態がある程度保たれる、という関係です。材料が尽きた先では、その歯止めもゆるみます。
もうひとつは時間です。腸内にとどまる時間が長いほど、分解が進む時間も長くなります。同じ材料でも、通過が遅ければ産物は増えます。便秘のときににおいが強く感じられることがあるのは、この時間の効き方が関わっています。
発酵と腐敗を分けているものについて書いたとき、悪臭のもとになるアミン類やアンモニアが多く生じる分解を腐敗と呼ぶ整理がある、と触れました。腸の中で起きていることも、同じ物差しの上にあります。菌が悪いのではなく、何を渡されたかで結果が変わっているだけです。
同じものを食べても、人によって違います
ここで、もうひとつの要素が入ってきます。菌の顔ぶれです。
材料が届いても、それを担当する菌がいなければ産物は出ません。逆に、菌がいても材料が来なければ何も作られない。材料と菌がそろって、はじめて産物までの線がつながります。どちらか一方が欠ければ、そこで止まります。
同じ食事をしても人によって結果が違うのは、この線のつながり方が人それぞれだからです。腸内フローラの顔ぶれには大きな個人差があり、誰かにとっての最適がそのまま別の人に当てはまるとは限りません。においという分かりやすい変化の裏側には、こうした組み合わせの違いが隠れています。
ですから、同じものを食べた人の感想がそのまま自分に当てはまるとは限りません。参考になるのは他人の結果ではなく、自分の中での変化のほうです。何を増やしたとき、あるいは減らしたときに違いが出たのか。そこには、自分の腸で今どの線がつながっているかが、間接的にあらわれています。
においは結果であって、診断ではありません
最後に、はっきりさせておきたいことがあります。においから病気を判断することはできません。においは腸の中で今どんな分解が優勢かをぼんやり映すもので、それ以上の情報ではないからです。
においや便の状態の変化が急に現れて続く場合、血が混じる場合、体重が落ちている場合は別に考えてください。自己判断で様子を見続けず、医療機関でご相談ください。
そのうえで、においを手がかりに考えるなら、向かう先は「においを消す」ことではなく「何が届いているか」のほうです。菌が何をつくるかは、材料と菌の組み合わせで決まります。私たちが検査の現場で見てきたのも、この関係でした。菌そのものを入れることを目的にせず、菌が生み出す成分に目を向けるという立場が、バイタレジーナのような製品の背景にあります。気になる方は、正規取扱店で相談してみてはいかがでしょうか。
においは、腸が今どう働いているかの結果です。まずは、届く材料のほうから見直してみてはいかがでしょうか。