窓辺で小さな容器を見る女性

腸内フローラの検査という言葉を、目にする機会が増えました。便を送るだけで、自分の腸内細菌がわかる。そう聞くと手軽に感じますが、その結果が何を表していて、何を表していないのかは、あまり説明されていません。ここでは、市販の腸内フローラ検査を例に、便を使った検査でわかることとわからないことを整理します。

目次

便は、腸のどこを映しているのか

腸内細菌を調べるとき、材料になるのはほとんどの場合、便です。腸の中に直接手を入れるわけにはいかないので、外に出てきたものから中の様子を推しはかります。

ただ、便が映しているのは、腸全体のうちの一部です。便は大腸の出口に近いところで形づくられるので、主に大腸の後半、それも腸の中を流れている側の菌を表しています。小腸にいる菌や、腸の壁に張りついて暮らしている菌は、便には出てきにくいと考えられています。

これは便の検査の欠点というより、性質です。何を映しているのかを知ったうえで結果を読めば、十分に役に立つ情報になります。

便の中には、食べたものの残りや、腸の壁からはがれた細胞、水分なども含まれています。菌はその中に混ざっているので、どの部分をとるか、どのくらいの量をとるかでも、結果がわずかに変わることがあります。検査の手順で採り方が細かく決められているのは、このためです。

菌を増やして数える方法と、遺伝子で読む方法

菌を調べる方法は、大きく二つに分けられます。

一つは、菌を培地という栄養の上で増やして、目に見える集まりにしてから数える方法です。微生物の検査で昔から使われてきたやり方で、生きている菌を確かめられること、増やした菌をさらに詳しく調べられることが強みです。一方で、腸の中には酸素を嫌う菌や、培地ではうまく育たない菌が多く、増やせる菌しか数えられないという限界があります。

もう一つは、便の中にある菌の遺伝子を読む方法です。菌を増やさずに、どんな菌の遺伝子がどれくらいあるかを調べます。育てにくい菌も含めて全体の顔ぶれをつかめるのが強みで、近年の腸内フローラ検査の多くはこちらを使っています。ただし、遺伝子があることと、その菌が生きて働いていることは、同じではありません。

この二つは、目的によって使い分けられています。特定の菌が生きているかどうかを確かめたいときは、増やして数える方法が向いています。全体の顔ぶれをざっくりつかみたいときは、遺伝子を読む方法が向いています。どちらが優れているかではなく、何を知りたいかで選ぶものです。

わかるのは「誰が、どれくらいの割合でいるか」です

遺伝子を読む検査で得られるのは、主にどの菌の仲間が、全体のうちどれくらいの割合を占めているかです。数そのものではなく、割合で示されることが多いのが特徴です。

割合で見ると、ある菌が増えたのか、ほかの菌が減ったせいで割合が上がったのかは、区別がつきにくくなります。また、多くの検査では菌を「属」と呼ばれる少し大きなまとまりで示します。同じ属の中にも、性質の違う種や株がたくさん含まれています。

同じ菌の名前でも、株が違えば働きが違うことを考えると、名前の一覧だけで、その人の腸で何が起きているかまで言い切ることはできません。検査の結果は、腸の中の様子をかなり大まかに写した写真のようなものだと考えると、受け止めやすくなります。

さらに詳しい方法として、菌の遺伝子をまるごと読み、その菌がどんな働きを持っていそうかまで推しはかるものもあります。ただし、働きを持っていることと、実際にその働きをしていることは、やはり別の話です。結果の読み方には、いつも一歩引いた目が要ります。

「善玉菌○%」が一つの数字にならない理由

ここで、よく尋ねられる点に触れておきます。検査の結果で、善玉菌が何パーセントと出てくることがあります。わかりやすい数字ですが、読み方には注意が要ります。

理由は二つあります。一つは、どの菌を善玉と呼ぶかに、決まった線引きがないことです。同じ仲間の菌でも、条件によってふるまいが変わることがあります。もう一つは、先ほどのとおり、同じ名前でまとめられた中に、性質の違う菌が混ざっていることです。善と悪の二つに分けて一つの数字にすると、その間にあるものが見えなくなります。

数字が出ること自体は悪いことではありません。ただ、その数字がどんな線引きでつくられたのかを、結果と一緒に確かめておくことをおすすめします。

検査を受けること自体を否定するつもりはありません。自分の腸に関心を持つきっかけとして、検査が役に立つことは十分にあります。大切なのは、結果の数字を絶対のものとして受け取らないことです。

一回の結果より、変化を見る

腸内細菌の顔ぶれは、食べたものや体調によって、数日のうちにも動くことが知られています。同じものを摂っても、人によって結果が違うように、もともとの顔ぶれにも大きな個人差があります。

そのため、一回だけの検査で他人と比べて良し悪しを決めるより、同じ方法で、間をあけて何回か調べ、自分の中での変化を見るほうが、意味のある読み方になります。そのときは、便をとる時期や保存のしかたもそろえておくと、比べやすくなります。

もう一つ、検査で見えるのは「誰がいるか」までで、その菌が何をつくっているかは、別に調べないとわかりません。菌がつくり出すものに目を向けるという立場からは、顔ぶれの一覧は出発点にすぎません。腸内フローラを知るための入口として、上手に付き合ってみてください。

検査の数字は、何を表し、何を表していないかを知ったうえで読むものです。検査の結果を受け取ったら、どの方法で調べたのか、何を数えたのか、どんな線引きを使ったのか。この三つを確かめるだけでも、読み方はずいぶん変わります。

なお、この記事は市販の腸内フローラ検査の一般的なしくみを説明したもので、特定の検査サービスを紹介するものではありません。

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