揚げものや脂の多い肉料理を食べた翌日、おなかの具合がいつもと違うと感じることがあります。脂は胃や小腸で消化されるもの、と思われがちですが、その消化のために体が出す胆汁は、一部が大腸まで届き、そこで腸内細菌につくり変えられています。ここでは、脂の多い食事のあとに腸で起きていることを、胆汁を軸に見ていきます。
脂を消化するために、胆汁が出ます
脂は水に溶けません。油と水を混ぜても分かれてしまうのと同じで、そのままでは消化の酵素がうまく働けません。そこで体は、脂の多い食べものが届くと、胆のうから胆汁を小腸へ送り出します。
胆汁に含まれる胆汁酸は、洗剤のように脂を細かな粒に分けて、水になじませる働きを持っています。粒が細かくなると、脂を分解する酵素が触れられる面が広がり、消化と吸収が進みます。
食べた脂が多いほど、出てくる胆汁の量も増えます。脂の多い食事は、胆汁の多い食事でもあるということです。この点が、腸内細菌とのつながりを考える入口になります。
胆汁は肝臓でつくられ、食事のないあいだは胆のうにためられています。脂の多いものを食べると、その刺激で胆のうが縮み、ためていた胆汁を一度に送り出します。食後しばらくして胃のあたりが重く感じるのは、こうした消化の仕事が一斉に動いている時間でもあります。
ほとんどの胆汁は、もう一度吸収されます
役目を終えた胆汁酸の多くは、捨てられるわけではありません。小腸の終わりのほうで再び吸収され、肝臓へ戻って、また胆汁として使われます。体は胆汁酸をくり返し使い回しているのです。
この使い回しはかなり効率がよく、胆汁酸の大部分が戻っていきます。ただし、すべてではありません。回収しきれなかった一部が、大腸まで届きます。脂の多い食事で胆汁がたくさん出れば、大腸に届く量もそのぶん増えやすくなります。
大腸に届いた胆汁酸は、そこに住む菌たちにとって、ふだんとは違う材料になります。ここからが腸内細菌の出番です。
この使い回しの仕組みがあるおかげで、体は毎回たくさんの胆汁酸を新しくつくらずに済んでいます。一方で、大腸に届いて外へ出ていく分を補うために、肝臓は体の中のコレステロールを材料にして、新しい胆汁酸をつくっています。
胆汁の色は黄色がかった茶色で、便の色のもとにもなっています。便の色は、胆汁が腸の中でどれくらい形を変えたかによっても変わります。ふだん気にとめることのない便の色にも、体が出した胆汁と、それを受け取った菌の仕事が映っています。
大腸まで届いた胆汁を、菌がつくり変えます
大腸の菌の中には、胆汁酸の形を変える力を持つものがいます。まず、胆汁酸についている飾りを外す菌がいて、さらに一部の菌が、その胆汁酸を別の形につくり変えます。こうしてできたものは二次胆汁酸と呼ばれます。
この二段めのつくり変えができる菌は限られていると考えられています。余ったタンパク質のときと同じように、届いた材料と、それを受け取る菌の組み合わせで、何ができるかが変わるということです。
また、胆汁酸そのものに菌を寄せつけにくくする性質があるため、胆汁が多く届くと、それに強い菌が残りやすくなります。動物性の食品を中心にした食事を短い期間続けた試験で、胆汁に強い菌が増えたという報告もあります。脂の多い食事は、胆汁を通して菌の顔ぶれにも関わっていると言えます。
二次胆汁酸は、もとの胆汁酸とは性質が少し違います。どのような性質を持つかは研究が続けられているところで、ここで良し悪しを決めることはしません。押さえておきたいのは、体が出したものが、大腸の菌の手で別のものに変わっているという流れのほうです。
脂が悪いわけではありません
ここまで読むと、脂は控えたほうがよいと感じるかもしれません。ただ、それは早い結論です。
脂は体にとって欠かせない材料です。体をつくる膜の材料になり、脂に溶けるビタミンを吸収するのにも必要です。脂を極端に減らすと、別のところで困ることが出てきます。胆汁の流れも、脂が届くことで保たれている面があります。
問題になりやすいのは、脂そのものより、脂が多い食事が続き、その隣に繊維が少ない状態が続くことです。一回の揚げものが腸を大きく変えるわけではありません。日々の積み重ねのなかで、どんな組み合わせが多いかのほうが大きく関わります。
脂の種類によっても、体への届き方は違います。魚の脂、植物の油、肉の脂。どれも脂ですが、性質や含まれる成分はそれぞれ異なります。脂を一まとめにして減らすより、どんな脂を、どんな組み合わせでとっているかを見るほうが、現実的です。
揚げものの隣に何を置くか
では、脂の多い食事をする日はどうすればよいでしょうか。考え方は、タンパク質のときと同じで、隣に何を置くかです。
食物繊維には、胆汁酸を抱え込んで、そのまま外へ運び出す性質があるとされています。また、繊維は大腸の菌にとって別の材料になるので、胆汁ばかりが届く状態をやわらげることにもつながります。とんかつにキャベツ、天ぷらにおろし大根や青菜の小鉢。昔からの組み合わせには、理にかなったところがあります。
翌日のおなかの具合が気になるときは、脂を責めるより、前の日の食卓に繊維がどれだけ並んでいたかを思い出してみてください。お酒が一緒だった場合は、アルコールによる水の話も重なっているかもしれません。
胆汁と腸内細菌のつながりは、ふだん意識することのない話です。けれども、脂の多い食事のたびに、体と菌のあいだで受け渡しが起きていると知っておくと、一皿の隣にもう一皿を添える理由が、少し具体的に見えてくるのではないでしょうか。